ロルフィングの紹介

筋膜ネットワーク
Fascial Network

筋膜は体内のどこにでもあり、あらゆる器官を覆って繋いでいるので、骨や筋肉を触察する時でも、実際には筋膜を通して触れていることになります。筋膜は体の中身を構成する組織であり、厳密に言えば各器官は筋膜に包まれているのではなく、筋膜の中で発達・形成されているのです。

「筋膜は圧を加えると動く」こと(筋膜の可塑性)を見つけて以来、アイダ・ロルフ博士は筋膜を「身体構造を形作る器官」として注目し、ロルフィング®は筋膜のネットワークに働きかける手技として発展してきました。

筋膜の可塑性は体感することができます。例えば、皮膚の下にある筋膜を軽くストレッチしたまま待っていると、組織がスライドしたり伸びたりするのが感じられます。ロルフ博士がこれを見つけた時には、なぜそうなるのか分かりませんでしたが、その後の研究により、現在有力視されている筋膜のメカニズムを紹介します。

筋膜の可塑性のメカニズム

この図は、体の表面と内部の組織を簡単に表したものです。Ⓐのように外界に面している表面の組織では、各細胞が生み出した物質を簡単に外に排出することができるので、細胞がレンガを積み重ねたように整列しながら密集します。Ⓐのような組織は上皮組織と呼ばれ、皮膚や粘膜、分泌腺などになります。
それに対して、Ⓑのように外界に面していない体の内部の組織は、細胞が生成した物質が体外に出る代りに各細胞の間に溜まっていきます。この場合、細胞は密集せずに距離が離れていき、細胞が生み出した物質(細胞外器質)が空間を満たしています。このような組織は結合組織と呼ばれ、筋膜もこれに相当します。

つまり筋膜は細胞の集合体である皮膚などとは違い、細胞の周りの大きな空間を細胞外器質が広がる構造になっているので、筋膜の可塑性はここを舞台に起こっています。細胞によって作られる物質の中には、コラーゲン、エラスチンなど、組織に強度や弾力性を与える線維がありますが、この他に、お馴染みのヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などの、水を強力に吸着する物質のおかげで、筋膜には多くの水分(組織液)が蓄えられています。

豚の筋膜を対象とした試験管内の実験では、筋膜にストレッチを加えて開放することを繰り返すと、スポンジに水が吸収されるように組織の水分量が増加し、弾力性も増大することが分かっています。つまり筋膜の組織がスライドしたり、伸びたりするのは、筋膜にとらえられている水分を介して組織が動くからだと考えられるのです。

科学的な解明とロルフィング®の触り方の変化

計測機器の進歩などにより、現在はこのように考えられている筋膜のメカニズムですが、アイダ・ロルフ博士の時代からしばらくの間は、コラーゲンにエネルギーを与えると構造が変化して、より液状になるのだと説明されていました(チキソトロピー説)。身体に働きかける時のイメージが、「エネルギーを与えて組織を変化させる」から「液体を誘導する」へと変わったことにより、私たちの触り方も以前とは質的に変化したと思います。そして今後も科学的な研究が進むとともに、触り方が変わっていくかもしれません。

国際筋膜学会の立ち上げ

最近になって注目されてきた筋膜ですが、筋膜の定義などは国際的にまだ曖昧です。それは長い間、筋膜よりも、それに覆われた骨や筋肉や臓器などの方に人々が注目していたからだと考えられます。例えば、私たちが教科書などで目にする古典的な解剖図には、筋肉や骨や臓器が描かれていますが、実際にそのような図を描くためには、すべてを覆って繋いでいる筋膜をきれいに取り除く必要があるからです。

21 世紀に入って、ロルフィング®の国際的な団体であるドクター・アイダ・ロルフ・インスティテュート(Dr. Ida Rolf Institute®)も、筋膜の研究に力を注ぐようになり(rolfresearchfoundation.org)、医師や研究者でもあるロルファー™などが中心となって、国際筋膜学会が立ち上げられました。学会は 2007 年から過去 4 回開かれていて、第 1 回目から日本の大学も参加しています。(https://fasciaresearchsociety.org/)

筋膜は筋肉の膜じゃない?

筋膜は英語では fascia と言い、「帯・束」という意味があります。筋肉に限らず、体内に広く分布していて、アメリカ式の解剖学では皮下脂肪も fascia に含み、内臓の周囲にも fascia があるので、筋肉の fascia を指すときには、わざわざ myo(筋肉の~)をつけて myofascia と呼ぶくらいです。また組織的にも、皮膚や粘膜のように、境界面に細胞が並んだ膜の構造をしていないので、fascia を膜と呼んでしまうと現実とのズレが生じてしまいます。

筋膜の定義について

国際的な定義は未だ確立されていませんが、DI・ロルフ・インスティテュートが参加している国際筋膜学会では、手技療法や運動法などで働きかける領域の結合組織を以下の4つに分類し、これらすべてを fascia として扱うことを提唱しています。

● 皮下組織・皮下脂肪の層
● 筋骨格系にまつわる結合組織
● 内臓系にまつわる結合組織
● 脳硬膜などの、神経系にまつわる結合組織

以上のように、ロルフィング®などの手技療法が扱う筋膜は、従来の一般的な「筋膜」よりも広い範囲の組織を表すようになってきています。